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会社側で、未払残業代請求に対し反論を行う方法とは?

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Q.先日まで在籍していた従業員が弁護士に未払残業代請求の依頼をしたようで、「未払残業代の額を確定するため、7日以内に資料の郵送を請求する」旨の内容証明郵便が会社に届きました。まず、7日以内というのが一方的な期限設定であると考えるのと、そもそも従業員の未払残業代額の計算に協力する義務が会社側にあるのか、はなはだ疑問です。本人へ直接連絡をとってすぐに問題を解決したいのですが、控えるように書かれております。仕事が多忙なこともあり、なるべく手間をかけずに解決したいのですが、この従業員の在職中の勤務態度を考えると、相手の思惑通りに未払残業代請求に応じるのもどうかと思っております。なるべく手間や費用をかけず、会社側として反論していく方法はないのでしょうか。また、今後、どのような流れで交渉が進んでいくのでしょうか。
A.弁護士が退職した従業員から未払い残業代請求の依頼を受けていることが明らかな場合、会社側は交渉の材料として、未払残業代の額を計算するために必要な資料を開示するべきと考えます(どのみち裁判となると、開示の義務が生じます)。請求のない資料まで開示する必要はありませんので、会社側であらかじめよく吟味したもののみ郵送するということは可能です。また、7日以内の準備が間に合わない場合、事情を伝え、妥当な範囲で期限を再設定してもらうという交渉は可能です。弁護士から「受任通知書」(未払残業代の請求に関する交渉を本人に代わって行う旨の書面)が届いている場合には、交渉の窓口が弁護士事務所となっており、本人に直接連絡することは控えた方がよいでしょう。後日、提出した資料をもとに未払残業代の額が計算され、会社に請求書が届き、そこから支払額の交渉がスタートすることになります。今回のケースでは最初から弁護士との交渉になりますが、それ以外のケースも含め、未払い残業代請求の一般的な流れと反論を行う場合の論点を詳述します。

1.未払い残業代請求の一般的な流れとは?

 
未払い残業代請求の一般的な流れ

① 本人からの請求

未払い残業代請求の基本となるのは、従業員本人から会社に対する直接の請求です。単に未払い残業代の請求を行うだけでなく、支払いに応じないと法的手段に訴える、あるいは労働基準監督署へ申告を行うといった警告をつけ、会社に実行を迫るケースも多くあります。これは会社に対する脅迫ではないかと言われることもありますが、従業員の立場を考えると、仕方がないのかもしれません。
未払い残業代の請求があった場合、会社側は「残業代など存在しない」と最初から切り捨てるのではなく、まずは労働契約書、就業規則、タイムカードおよび賃金台帳を突き合わせて、本当に未払い残業代が存在するのかを確認するべきです。従業員は手元のメモなど会社側にない資料を根拠に未払い残業代を計算していることも多くあるため、その場合は資料の提示を請求しましょう。
他の請求手段では退職後に徹底的に会社と争うスタンスが多いのですが、本人が直接請求してくる場合に限っては、在職しながら待遇の改善を求めるものも多くあります。この時点で蔑ろにせず、しかるべき対応をしておけば少ないコストで問題を解決することができる場合も多々あるため、丁寧に対応することをお勧めいたします。

② 弁護士との交渉

もともとは未払い残業代の請求において、弁護士は交渉の後半になって、裁判の前段として出てくる存在でしたが、最近は「着手金無料」「成功報酬型」などの料金体系で交渉を請け負う弁護士が増えてきており、残業代請求交渉の早い段階で、弁護士から会社に連絡が入る機会が増えてきました。
およそどこの弁護士事務所も決められたフローに沿って動くようで、まずは受任通知(従業員から交渉の代理を請け負った旨の通知)かたがた、残業代の計算に必要な資料を請求してきます。
会社側が資料を提出すると、後日、弁護士事務所から内容証明郵便などで残業代の請求書が送られてくることになります。請求書に書かれた額に驚いて当事務所に電話をしてこられる方が多くいらっしゃるのですが、もともとこの額は従業員側の主張する賃金や労働時間を採用したものとなりますので、疑ってかかるべきといえます。
会社側の主張と従業員側の主張の折り合いがつくのであれば和解ということになり、折り合いがつかないのであれば、労働審判または本裁判への移行となります。

③ 労働組合との団体交渉

労働組合というと組織率が減少の一途をたどっており、「うちの会社には関係ないよ」という方も多いのですが、最近は個人で加入できる合同労組(ユニオン)もあり、「組合員」となった従業員の未払残業代の支払いを請求するため会社に団体交渉を申し入れてくることがあります。合同労組は一見部外者なのですが、従業員が「組合員」となり、労働組合法による要件を備えている場合、会社としては団体交渉の要求に応じざるを得ません。
労働組合のスタンスは千差万別で、ビジネス的に淡々と交渉を進めてくる組合もあれば、「階級闘争」を前面に押し出してくる組合もあります。およそどの組合も会社側を交渉で煩わせ、根負けしたところに有利な条件で話をまとめようとする傾向があります。
組合によっては手段を選ばず、忙しい社長を連日の電話で煩わせたり、取引先に対して街宣活動を行うなど、会社の営業活動の妨げとなるような行動をとることもあります。そのような組合が先々まで交渉の相手となることを考えると、余計に恐れて妥協せず、あるいは法的手段に訴え、事実に基づいて淡々と交渉すべきといえます。

④ 労働基準監督署の利用

未払い残業代の請求において依然として多いのが、行政機関である労働基準監督署を利用した方法です。労働基準監督署(労働基準監督官)は労働者から労働基準法違反(残業代の未払い)に関する申告があった場合、使用者である会社を調査し、労働基準法違反(残業代の未払い)が発覚した場合には是正勧告を出すものとされています。是正勧告に従わなければ労働基準法違反として会社および経営者が告発されることがあるため、実質的に、是正勧告は会社に対する残業代支払い命令となり、従業員にとってはコストパフォーマンスの良い残業代請求の方法となっています。
労働基準監督署の調査の際は、所轄の労働基準監督署から資料を持参して出頭するようにという連絡が会社へ書面などで届きます。書面の場合は「出頭通知書」というタイトルになっているため、驚かれる方も多くいらっしゃいます。出頭の際は労働基準法に沿って残業代が支払われているかを確認するため、労働契約書、就業規則、タイムカード、賃金台帳などの資料の持参を求められます。
資料が一通りそろっていて、未払い残業代の有無が明らかならば是正勧告を出して(あるいは出さずに)調査終了となるのですが、たとえば、休憩の有無やみなし残業代の設定など事実関係に争いがある場合などには行政機関の民事不介入といい、特に結論が出されずに調査終了となることがあります。そもそも労働基準監督署を利用すべきでないケースといえますが、最初の段階でそこまで見通しを立てるのは難しいかと思います。

⑤ 労働審判、本裁判

未払い残業代請求について交渉で折り合いがつかない場合、労働審判または本裁判となります。裁判まで行く場合は、会社と従業員の主張に大きな隔たりがあって埋まらないか、当事者が感情的になっているケースが多いようです。労働審判は3回以内の期日で労使紛争に関する審理を行うもので、調停成立(話し合いによる解決)または審判(裁判所としての判断)により、およそ2ヶ月以内に決着がつくことがほとんどです。未払い残業代請求に関しては、ほとんどの場合で、従業員側が、時間とコストにおいてメリットが大きい労働裁判を選択します。労働審判は会社側にとっても被告として名前が出ないメリットがあり、本裁判を行った場合と近い結果を得られるので、移行すること自体は前向きに考えてもよいと思います。
なお、労働審判は本人が証拠の提出および陳述(自らの言い分を述べること)を行うこともできますが、通常は弁護士に依頼するため、そのコストも検討して労働審判に移行するか、あるいはそれ以前に解決しておくかを判断すべきでしょう。

2.労働時間の計算の特例に該当すれば、未払い残業代の請求額を下げることも可能

① 労働基準法上の管理監督者に該当するか

未払い残業代を請求してきた従業員が労働基準法上の管理監督者であれば、残業時間の計算の対象とならず、そもそも残業代を支払う必要がないことになります(深夜勤務手当の支払いは必要です)。

労働基準法上の管理監督者とみなされるためには、以下の条件をすべてクリアする必要があります。
・経営者と一体の立場にある者であるかどうか
→ 経営に直接かかわるような枢要なポストにあり、自分の業務に関する裁量と権限、部下に対する労働条件や人事考課における決定権を持っていること
・厳格な時間管理を受けない者であるかどうか
→ 自分の労働時間を決定する裁量と権限をも持っており、遅刻した程度で減給を行わないこと
・その地位にふさわしい処遇を受ける者であるかどうか
→ 地位にふさわしい処遇(年俸ベースで7~800万円以上といわれます)を受けていること

② 専門業務型裁量労働制の対象者であるか

未払い残業代を請求してきた従業員が専門業務型裁量労働制の対象者であれば、1日の労働時間は労使協定で定めた労働時間となり、タイムカードに記載された労働時間によらず残業代を計算することとなります。

専門業務型裁量労働制の対象者とみなされるためには、以下の条件をすべてクリアする必要があります。
・厚生労働省令によって定める業務(※)に主として従事していること
・職場で労使協定が締結され、所轄労働基準監督署に届け出が行われていること(有効期間に注意)
・仕事の遂行の方法および時間配分につき自己裁量に委ねられていること
・労働契約の内容とこれらが矛盾しないこと

※厚生労働省令によって定める業務
「研究・開発職」「システムエンジニア」「記者、編集者、取材スタッフ」「デザイナー」「プロデューサー・ディレクター」「コピーライター」「システムコンサルタント」「インテリアコーディネイター」「ゲームクリエイター」「証券アナリスト」「金融商品開発職」「大学の教授、助教授または講師」「国家資格による専門職」

③ 企画業務型裁量労働制の対象者であるか

未払い残業代を請求してきた従業員が企画業務型裁量労働制の対象者であれば、1日の労働時間は労使委員会で決議した労働時間となり、タイムカードに記載された労働時間によらず残業代を計算することとなります。

企画業務型裁量労働制の対象者と見なされるためには、以下の条件をすべてクリアする必要があります。
・本社、本店、または事業運営に大きな影響を及ぼす計画の策定を行う支社、支店において行う業務である
・対象業務(※)に主として従事していること
・大学等を卒業して3~5年の職務経験があること
・労使委員会で決議し、所轄労働基準監督署に届け出が行われていること(有効期間に注意)
・仕事の遂行の方法および時間配分につき自己裁量に委ねられていること
・労働契約の内容とこれらが矛盾しないこと

※対象業務の例
「新商品、新技術の研究開発」「情報処理システムの分析・設計」「記事の取材・編集」「デザイナー」「放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクター」「コピーライター」「システムコンサルタント」「インテリアコーディネーター」「ゲーム用ソフトウエアの創作」「証券アナリスト」「金融商品の開発」「公認会計士」「弁護士」「建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)」「不動産鑑定士」「弁理士」「税理士」「中小企業診断士」「大学での教授研究」

④ 事業場外のみなし労働時間の適用があるか

未払い残業代を請求してきた従業員に事業場外のみなし労働時間の適用があれば、実際の労働時間にかかわらず、一律に始業時刻から終業時刻まで(労使協定で定めた時間)を労働したとみなす取り扱いを行うことができます。これにより、事業場外で勤務している間については原則として、残業の問題が生じないことになります。事業場外のみなし労働時間の適用となるのは外勤の営業職か自宅勤務者といった労働時間の把握が難しい業務とされ、以下の条件をすべてクリアする必要があります。

(外勤の営業職)
・労働時間の把握が難しい業務であること
・携帯、メールなどで会社から随時連絡を行うものでないこと
・上司など労働時間の管理をするものに帯同するものでないこと
・当日の業務について具体的な指示を受け、事業場外で業務に従事した後、会社に戻るものでないこと

(自宅勤務者)
・私生活を営む自宅で行われる業務であること
・携帯、メールなどで会社と常時連絡を取れる状態におく趣旨でないこと
・会社の具体的な指示により行うものでないこと

3.未払い残業代の請求額から削減できる項目はあるか?

① みなし残業代(固定残業代)の設定があるかどうか

あらかじめ労働契約において、残業代が月給額のうちいくらで、何時間分の残業代に相当するかというのを明示されていれば、その分の残業代は月給に含め支払ったものとして、別途支払う必要はなく、相当の残業代の圧縮効果があります。みなし残業代がいくらで何時間分に相当するかといった設定があいまいな場合においては、少しでも多くの証拠を集め、みなし残業代が設定されていることを証明するべきでしょう。

みなし残業代が認められる労働契約の例
 基本給 230,000円
 固定残業代(30時間分)70,000円

② 法定労働時間の特例(44時間)に該当するか

労働基準法により法定労働時間が1週40時間、1日8時間とされている中で、法定労働時間の特例として、以下の業種については法定労働時間が1週44時間となっています。法定労働時間が44時間となると、労働契約において週6日勤務することが義務づけられているような場合、週の労働時間の合計が40時間を超え、4時間分の残業が生じても、残業代を支払う必要はありません(1日8時間を超える労働については通常通り、残業代の支払いが必要です)。

法定労働時間の特例が認められる業種
※事業所(店舗)ごとの従業員数が9名以下であることが必要です。
・商業(卸売業、小売業、理美容業など)
・映画、演劇業
・保健衛生業(病院、診療所など)
・接客娯楽業(旅館、飲食店など)

③ 相手の残業代請求の根拠となる残業時間は疑ってかかるべき

従業員が未払い残業代を請求する際は一般的に、タイムカード(または手元の資料)により、始業時間から終業時間まで(休憩時間を除く)時間をすべて労働したものとして労働時間を見積もってきますが、そもそもその間に仕事をしていたかどうかということについては検証されていません。入退社記録やパソコンのログイン記録など、会社側に、勤務時間中に仕事をしていなかったことを立証する資料があれば、その分は労働時間と認めない主張をすることができます。また、就業時間後の残業についても、36協定や残業命令書、他従業員のタイムカードなど、残業を会社の命令によらず(禁止していたにもかかわらず)行っていた事情を立証することができれば、その分の残業代は支払わないことができます。

 
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執筆者 社会保険労務士 山本多聞
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