1.すでに「残業代ゼロ制度」は導入されている。
① 既存の「残業代ゼロ制度」との比較
「残業代ゼロ制度」といいますと、高度プロフェッショナル制度の登場を待たず、すでに労働時間ではなく仕事の成果で労働者が処遇される趣旨の制度はいくつか導入されています。労働基準法上の管理監督者、企画業務型裁量労働制、および専門業務型裁量労働制です。企画業務型裁量労働制は制約が多く、これまで使いづらい制度でしたが、今後の労働基準法改正をもって対象となる業務が増え、利用しやすくなると見られます。既存の「残業代ゼロ制度」の要件、労働時間の取り扱いを整理すると以下の通りです。
対象となる職務の範囲 | 対象者の年収 | 労働時間の取り扱い | |
労働基準法上の 管理監督者 | 管理監督、指揮命令に関し、広い裁量を与えられていて、経営者と一体的な立場で業務を行う管理職。 | 年収 7~800万円 以上 とされる。 | 労働基準法による労働時間の規定が適用されないため、残業という概念がない。 |
企画業務型 裁量労働制 ※改正予定 | 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析(本社、重要拠点における運営企画)の職務。 | なし | 所定労働日の労働時間を実労働時間にかかわらず、労使委員会で決議した労働時間を働いたものとみなす(所定労働時間以内と決議すれば、残業は生じない)。 |
専門業務型 裁量労働制 | 以下のいずれかの職務。 | なし | 所定労働日の労働時間を実労働時間にかかわらず、労使協定で定めた労働時間を働いたものとみなす(所定労働時間以内と協定すれば、残業は生じない)。 |
高度プロフェッショナル制度 ※2019年 4月1日施行 | 高度の専門的知識等を有する労働者であり、業務に従事した時間と成果の関連性が強くないもの。 | 年収 1,075万円 以上 ※現在検討中 | 労働時間に関する規定が適用されない。つまり、残業という概念がない。 |
② どの制度を優先して採用していくのか
高度プロフェッショナル制度と労働基準法上の管理監督者は労働時間の規制がゆるいため、会社側にとっては非常に使いやすい制度です。職務の範囲や年収など要件がシビアではありますが、該当すれば他の制度に優先して対象としたいところです。これに該当しない経営企画職や企画営業職の労働者は企画業務型裁量労働制の対象とすることを考え、その他専門職の労働者は専門業務型裁量労働制の対象とすることを考えていきます。
2.高度プロフェッショナル制度の導入および運用
① 高度プロフェッショナル制度導入の手続き
高度プロフェッショナル制度を導入するには、労使委員会(※)で決議を行い、労働基準監督署に届け出る必要があります。労使委員会では、高度プロフェッショナル制度の対象業務、対象労働者の範囲、対象者の健康管理時間(※)を把握する措置、健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置の実施、労働者の同意の撤回手続き、苦情処理手続き、不同意に対する不利益取り扱いの禁止などについて定めを行い、委員会の5分の4以上の多数により決議を行います。
※労使委員会・・・半数を会社側、他の半数を過半数労組(過半数労組がない場合は過半数代表者)がそれぞれ任期を定めて指名した委員によって構成され、労働基準法に関する一定の事項を協議する委員会です。招集、定足数、議事その他の運営規程を作成していること、および、委員会を行う際は議事録を作成し、3年間保存するとともに労働者に周知することが要件となります。
※健康管理時間・・・事業所内にいた時間と事業所外で労働した時間の合計。労働時間の概念がない高度プロフェッショナル制度の対象者の健康管理のために勤務時間の把握および管理を行うものです。
② 高度プロフェッショナル制度運用の要件
高度プロフェッショナル制度を導入する際には、以下の措置を必ず講じる必要があります。
必ず行わなければならない措置
・1年を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること
いずれかひとつを選択して行わなければならない措置
・始業から24時間が経過するまでに一定の休息時間(勤務間インターバル)を確保し、かつ、1ヶ月の深夜業は一定回数内とすること
・健康管理時間が1ヶ月または3ヶ月中について一定の時間を超えないこととすること
・1年に1回以上の継続した2週間の休日(労働者の請求により2回以上の継続した1週間の休日)を与えること(有給休暇取得日を除く)
・一定要件に該当する労働者に健康診断を実施すること(1週40時間を超える健康管理時間が1ヶ月80時間を超えた場合または本人から申し出があった場合を想定)。
2.高度プロフェッショナル制度、今後の見通し。
① 年収要件の引き下げによる適用拡大
今のところ、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は年収1,075万円以上となる見込みであるため、一般の中小企業では役員クラスの待遇となり、ほとんど利用することができないと見られます。政府内の議論の段階で、すでに経営側からは制度が使いづらいとの意見が出ていますが、一方で労働者側からは、年収要件を段階的に引き下げて適用を拡大する布石だとの批判が出ています。実際に、高度プロフェッショナル制度が日本で導入された場合、制度の活用を図るため、ある程度まで年収要件が引き下げられていくと考えられています。ちなみに、同趣旨の制度が導入されているアメリカでは、週455ドル(年収200万円程度)にまで収入要件が段階的に引き下げられていますが、残業代が支払われない労働者が多すぎるとの批判を受け、要件の見直し(収入要件の引き上げなど)を検討している状況です。
② 結局、勤務時間の管理は必要となる
高度プロフェッショナル制度の対象者には労働時間の概念がありませんが、まったく勤務時間の把握を行う必要がないということではなく、過労などを予防するために「健康管理時間」として勤務時間の把握および管理を行う必要があります。この健康管理時間については残業代など賃金の計算に関係なく、あくまで健康管理のために用いるものです。把握の方法についてはタイムカードやパソコンの起動時間など客観的な方法によるものとされるため、結局、時間管理については一般社員と同様の方法をとらねばならないでしょう。
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