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年俸制社員に残業代を支払う必要はあるのか?

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Q.先日退職した従業員から残業代を請求する旨の文書が内容証明郵便で届きました。当社では課長補佐以上の管理職は一律年俸制としており、その従業員も課長補佐であったため、年俸制の契約となっておりました。当社としては、管理職であれば年俸制であり、その年俸には残業代を含む旨の説明を行い、退職するまで当人も異議を述べておらず、残業代を支払う必要はないと認識しております。他の従業員の手前もあるため、この従業員だけ特別の扱いをすることができない事情もあります。管理職の年俸に残業代を含む契約になっていたということで、残業代の請求を拒否しても差し支えないでしょうか。
A.年俸制についてよくある誤解として、会社が従業員に年間に支払う賃金の総額があらかじめ定められていれば、それに加えて残業代など支払う必要がないというものがありますが、実際に従業員が所定労働時間を超えて残業を行った場合には、残業時間に対応した残業代を支払わねばなりません。年俸に残業代を含むとして従業員に残業代を一切支払わず、後から会社が未払いの残業代を請求された場合において、「年俸制の報酬に残業代を含んでいる」という反論が会社側からしばしばなされますが、これを有効とするには、残業代が年俸額のうちいくらで、何時間分の残業代に相当するかというのをあらかじめ明示することにより、(できれば労働契約書など証拠が残る方法で)本人の同意を得ていることが条件となります。管理職の場合でも、原則的に残業時間に対応した残業代を支払う必要があります。例外として「労働基準法上の管理監督者」に該当する管理職であれば、使用者が労働時間の把握を行う必要がないために残業代を支払う余地がないということになりますが、今回のケースですと、課長補佐ということで、これには該当しないようです。管理職であり年俸制であるからといって無条件に残業代を支払う必要がなくなるということはなく、それぞれの基準に当てはめて判断することになります。

1.年俸制でよく誤解されている点とは?

① プロ野球選手の年俸制と一緒くたに考えてはいけない

年俸制とは、会社が従業員に支払う賃金の額を年単位で決定する制度でして、一般的に、実績や評価により年俸の額が変動する幅が大きく、管理職や高度専門職など、仕事の成果が問われる職務に採用されることが多い賃金体系です。年俸制というと球団とプロ野球選手の関係がよくイメージされますが、プロ野球選手の年俸制は請負契約であり、会社と従業員の労働契約における年俸制と一緒くたに考えることはできません。労働契約における年俸制の場合、会社が期待する実績が出なかったからといって、極端に年俸額を下げることが法的に認められない場合があります。また、よく誤解される点なのですが、年俸制自体に労働時間の管理を行う必要がない、あるいは残業代を支払う必要がないといった法的効果はなく、対象となる従業員が労働基準法の管理監督者に該当し、労働時間および残業代計算の対象から外れるか、裁量労働制など労働時間を一定と見なす制度の対象となるか、あるいは年俸額に残業代を含む旨の契約(みなし残業代)とすることにより、「残業代込みの年俸制」が実現されることとなります。

② 年俸制の導入でかえって残業代が高くなってしまう

年俸制で定められた賃金は労働基準法第24条「賃金毎月1回以上支払いの原則」により各月に分配して支払うことになります。代表的な例として、毎月従業員に支払う給与を年俸額の1/12ずつとするケース(平準分配型)と、毎月の給与は年俸額の1/16ずつに抑え、2/16ずつを夏、冬に別途支払うケース(ボーナス的支給型)があります。年俸制の平準分配型ですと、年俸額の1/12を月額支給として月々の支給額を多くしているため、残業代の単価が賞与を「臨時に支払われる賃金」として支払う場合と比べ、高く計算されます。また、年俸制のボーナス的支給型として毎月1/16ずつ支払うケースでも同じでして、年俸額の1/12がそのまま毎月の賃金として残業代の計算が行われます。タイミングを変えて賃金を支払ったところで、あらかじめ年俸額として年間に支払われる賃金の総額が定まっているが故に「臨時に支払われる賃金」とは評価されず、毎月支払われる賃金に上乗せし、平均して計算される(年俸額を1/12して月額にならした額)こととなります。なお、年俸制ではなく、月給制+(賞与)で賃金の支給がなされる場合において、毎月支払われる賃金と別に賞与が支給される場合がありますが、残業代の計算においては毎月支払われる賃金のみが対象となり、「臨時に支払われる賃金」である賞与は対象となりません。

残業代単価のイメージ
残業代単価のイメージ

2.年俸制で残業代を支払わなくていいケースとは?

① 年俸制の一部にみなし残業代を設定する場合

年俸制におけるみなし残業代はしばしば残業時間および残業代の設定があいまいとなり、のちのち従業員の申し立てにより無効とされるリスクを抱えることとなってしまいますが、これを適切に運用することができれば、実際の残業時間がみなし残業時間に達するまでの残業代を年俸給に含め支払ったものとして、別途支払う必要がなくなります。導入の場合、あらかじめ労働契約において、残業代が年俸額のうちいくらで、何時間分の残業代に相当するかというのを明示し、従業員の同意を得ておくこととなります。就業規則や労使協定においてみなし残業代の設定を行う場合もありますが、従業員が同意した覚えがないと主張するケースもあるため、できれば手間を惜しまず、各従業員との労働契約における設定を目指すべきでしょう。

・年俸給の一部にみなし残業代を設定する場合の例
年俸額 6,000,000円
月給として 500,000円(うち125,000円は月に45時間分の時間外勤務手当、深夜勤務手当、
休日勤務手当の合計に相当し、実労働時間および手当がこれに満たない場合でも支払うものとします)

労働時間についてはタイムカードなどで計算し、みなし残業代(残業時間)をオーバーした分はすべて支給することが前提となります。

② 労働基準法上の管理監督者である場合

管理職などは成果に応じてドラスティックに賃金を増減させる必要もあることから、しばしば年俸制の対象となりますが、労働時間の計算を行わず、残業代を支払う必要のない「労働基準法上の管理監督者」に該当するかは社内の役職名などにかかわらず、実態によって判断されます。具体的には、以下の基準となります。

・経営者と一体の立場にある者であるかどうか
→ 実質的に、自分の業務に関する裁量と権限、部下に対する労働条件や人事考課における決定権を
持っているか
・厳格な時間管理を受けない者であるかどうか
→ 自分の労働時間を決定する裁量と権限を持っているか
・その地位にふさわしい処遇を受ける者であるかどうか
→ 年俸ベースで7~800万円以上といわれる報酬を受けているか

なお、「労働基準法上の管理監督者」となっても、会社はまったく時間管理をおこなう責任がないということではありません。 管理監督者にも深夜業に関する規定は適用されるため、深夜労働をおこなった時間はカウントして、割増賃金を支払う必要があります。

③ 専門業務型裁量労働制の対象者である場合

厚生労働省令において定められる業務のうち、仕事の遂行の方法および時間配分を本人の裁量に委ねる必要があるとして、労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出を行った場合、対象となる従業員の所定労働日の労働時間を実労働時間にかかわらず、労使協定で定めた労働時間を働いたものとみなす(所定労働時間以内と協定すれば、残業は生じない)こととなります。 決議時間が所定労働時間を超えた場合や所定労働日以外に労働した場合などは、残業手当等の支払いが必要となり。また、勤務が深夜に及んだ場合に深夜割増手当の支払いが必要となります。
※詳細は「専門業務型裁量労働制の導入で残業代をカットすることができるのか?」を参照ください。

④ 企画業務型裁量労働制の対象者である場合

事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析(本社、重要拠点における運営企画)、仕事の遂行の方法および時間配分を本人の裁量に委ねる必要があるとして、労使委員会で決議し、所轄労働基準監督署に届け出を行った場合、所定労働日の労働時間を実労働時間にかかわらず、労使委員会で決議した労働時間を働いたものとみなす(所定労働時間以内と決議すれば、残業は生じない)こととなります。 決議時間が所定労働時間を超えた場合や所定労働日以外に労働した場合などは、残業手当等の支払いが必要となり。また、勤務が深夜に及んだ場合に深夜割増手当の支払いが必要となります。
※詳細は「企画業務型裁量労働制の適用拡大はいつから?」を参照ください。

 
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執筆者 社会保険労務士 山本多聞
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